• キングの椅子

    うちには2m×80cmくらいのテーブルがおいてあって、そこで新聞を読んで、子供が宿題をして、パソコンもして家計簿をつけ、CDを聞いて、トランプをして、ごはんをたべようかと思ったら、はな(いぬ 8かげつ♀)がおかずをくすねていき、「くおらーー、ちゃんと見とらんかーーー。」と子供をしかりつける毎日ですが、みなさんの家ではどんな感じでしょうか。

    テーブルのまわりには椅子(丸太2本を含む)が7つと多めにおいてあるのですが、なぜかそれぞれすわる場所は決まっています。私の隣に子供がすわって、子供の正面に相方がすわるという子供を中心とした直角ニ等辺三角形が形作られているわけです。(そして足もとでは、きょうもさくら(ねこ 12さい♀)がはなにパンチをあびせております。シャーシャー)

    どういういきさつでそうなったかといいますと、私が始めに「オレはここにすわる」といったら向こう側に相方がすわって、最後に子供が私のとなりにくっついて、相方が子供の正面にスライドしたわけです。この関係はファミレスなどにおいても維持されることがけっこうあって、うちの子供がなにかしら安心できるポジションのようです。

    どういういきさつで私が始めに「オレはここにすわる」といったかというと、それは設計のときから決めていたからです。『窓際のこの席に座って庭の樫の木をながめるのがこの家のベストポジションだぜ。フッフッフッ・・・』(回想)というわけで、テーブルが来たときに真っ先に場所とりをしたのでした。結果は想像したとおりの大満足を口には出さず、『オレってやっぱりフッフッフッ・・・』とネクラにてんぐになっておりました。

    こうしてキングの椅子を手に入れたわたしですが、不思議なことに彼女らは私が家に不在のときでもこのベストオブベストのポジションに座ろうとはしないようです。やはりこの私の威厳 威光が、わが家のすみずみにまで行きわたっているからでしょう。(って、うそです、うそです、ごめんなさい。反省します。)

    ご近所さんはなしっぽ

    さて、これほどまでにキングの椅子に執着を燃やす私ですが、時にはその玉座を他人に明け渡さねばならぬときがあります。そうです、それはお客様がいらっしゃったときです。さあ、どうぞこちらへということで、自分は向こう側、相方のとなりの窓際の席に座ることになります。(うおっと、うちには応接間がなかったのですね。)入り口から入ってきて、いちばん座りやすい席ということもありますが、自分の中では、いちばんの場所をお客様に提供するといった気持ちが無意識ながらにもあると思われます。

    そういえば、こんなことを考えているうちに思い出したのが、以前五箇山へ仕事でかよっていたときに勉強した合掌造りに住む人々の生活様式で、「いろり」を囲む場所の名前が決まっていて、家族のだれがそこに座るかも決まっているということです。「おくざ」、「おとこざ」、「かかざ」、「ばばざ」と呼ばれ、「おくざ」には家長が、「おとこざ」には長男、「かかざ」には母親、「ばばざ」にはおばあちゃん、おじいちゃんが座って、こどもたちは座の間に割り込むか、母親にならんで座る決まりだったそうです。お客様が来たときに席をゆずるのは、「おとこざ」の長男、家長に替わって「おくざ」に座ることができるのはお坊さんだけだったそうです。

    だだっぴろい板の間の「いろり」の周りにむしろを敷いて座り、家具らしい家具もないような生活の中にあっても、それぞれの居場所が決まっていて家族間の秩序(序列)が目に見える形で現れてくるというのは興味深いことのように思われます。きっとみなさんの家でも、その家ごとのローカルルールにもとづいた「キングの椅子」があるのではないでしょうか。それは一軒にひとつだけではないかもしれませんし、家族の全員がそれぞれ持っているのかもしれません。家を設計するときLDK何畳とか言って、機械的にスペースを割りふってしまうこともあるのですが、単純な四角といえどもその中で自分には想像もつかないような暮らしがくりひろげられるのかもしれません。家を考える、生活を考えるということは、本当は家族や個人の中でやがて明らかになるであろう「キングの椅子」をいくつ思いうかべて絵が描けるかということなのではないでしょうか。
    それではまた。

    おとな目線さくら目線

    わが家のデータ 居間
    2007年11月12日(月)AM.6:00 気温17℃ 湿度62%
    外気温10℃ 雨、雷 11月5日からこたつ生活です